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ファンタジー世界の住人が殺し合い以外で決着つける [転載禁止]©2ch.net

1 : ◆DPuxeUccgI :2015/09/17(木) 01:02:06.56 0
ナイトさん「ゴブリンとコボルトみっけ。経験値とお金ゲットー」
ゴブリンくん「ちょっと待って下さいよ。何であなた達人間は毎度毎度そうやって
        僕らを見かけた途端殺しにかかるんですか」
コボルトくん「今日は家族サービスで遊びに行くところなんだから勘弁して下さい、お願いします」
ナイトさん「えー。いいけどさー」
レンジャーさん「でも、こちらも経験値とか、お金とか稼ぎたいんですよね。
          ダメでしょうか?そこを何とか、お願いしますよ」
ゴブリンくん「そちらの事情だけで僕らの予定も人生も台無しにするなんて、あまりにも惨くありませんか」
クレリックさん「そうかい?誰だって死ぬ時は死ぬんだしさ。じゃあここで見逃したら、次会った時に
         遠慮なくやっちゃっていいの」
コボルトくん「それもちょっと。まだ、うちの子2歳なんで、死ねないんです」
ナイトさん「煮え切らないなぁもう。わかったわかった、わかったよもう。
       命を取らないから、別な方法で勝負しようよ。それで勝ったら、経験値とお金をもらう。
       これでどう?」
ゴブリンくん「おお、それは名案ですな。しかし、何で勝ち負けを決めるんですか?」
コボルトくん「とりあえず、スポーツはどうでしょう、日曜どうでしょう」
レンジャーさん「私も賛成です。危なくないし楽しいじゃないですか」
クレリックさん「しょうがないなあ」

2 : ◆DPuxeUccgI :2015/09/17(木) 01:14:44.37 0
こうしてナイトさん、レンジャーさん、クレリックさんの三人パーティーは

魔物側の事情により、不幸にもスポーツ勝負に乗ってしまう 。

日曜、指定の場所にノコノコやって来たヒヨコ冒険者達に言い渡された勝負方法とは…

3 :Fight1/降臨、神! ◆DPuxeUccgI :2015/09/17(木) 17:11:25.52 0
日曜日、アサキン平野へと赴いた三人を待っていたのは勝負をふっかけた
二匹の魔物だけではありませんでした。頭から身に纏う衣まで、いかにも地上の穢れと無縁そうな
無垢の白さに満ち溢れた老人…初対面なのに、三人はこの老人を知っていました。
「この神々しさは…!もしかして、神様では!?」
「そうです…!我が神でございます」
レンジャーさんは思わずのけぞり、クレリックさんは唖然としました。そりゃそうです。
神様は地上の事、しかもたかだか野試合のような些事に関わっている程暇な方ではないからです。
「どうして、神様が!?あんた達、説明せんかい!」
「我が直接お話ししましょう!宜しいですか、我は………神!この世界を創りし者です!」
「知ってるよ」
「話は最後までお聞きなさいよ…クレリックさん!!我は、神であっても世界を管理する役目までは、
 毛頭ござんせん!!!つまり、あなた達地上の生き物が、殺し合っていても、それは…自然の摂理!!!!
 神の知るところにないのですよ!ですがねえ、聞けばあなた方はこの世界始まって以来………
 種族間ファイトを命の奪りあいっこではなく、全く違う解決方法で、済ませようとしてらっしゃる
 そうですね!!!!我は、いたく、感動しました…!!」
「神様話長いんですね」
「黙って、お聞きなさい!!!!バカモン!!!!……この記念すべき世界初の試合を、我は審判として
 見届けると決めたのです!!!」
ただの経験値とお金稼ぎのはずが、神様お墨付きの試合に発展してしまったようです。
並の人間ならば、緊張するどころではすまない場面ですが、彼女達ヒヨコ冒険者も自らの命を賭して
戦ってきた者達です。臆していませんでした。さすがだぜ。
「ようし、なんだか盛り上がってきたわ。やってやろうじゃないの。なんでも、どんと来なさいってんだよ」
「神様、審判はいいんですけど、試合って何を行うんです?」
「それは、ビーチバレーの平野版たる、『グラス・バレー』でございます!!!え〜い!!」
神様が杖を高く振りかざした途端、平野がカカッ、と眩い光で包まれました。視界から光が消えると、なんと。
ご丁寧にすぐ目の前の開けた草地が、バレーのコートに整備されていたのです。
「ポールもネットも、ラインまで引かれてありますよ!助かります、神様」

4 :Fight1/降臨、神! ◆DPuxeUccgI :2015/09/17(木) 17:39:47.54 0
「助からないのは、貴様達ザコ人間共だぜ!馬鹿め!!」
得意げにそう言ったのは、ゴブリンくん。途端に態度を急変させてどうしたのでしょうか。
「試合前に、一つ、説明しておきましょう!この試合は、神聖な…ファイト!!敗れても、命をなくさずに
 済みます!勝った側は、負けた側から、望むものをもらえます!!」
「何だって!?じゃ、じゃあ私達が勝てば、経験値とお金はもらえても…負ければ…」
「おれ達は貴様達から逆に奪えるんだぜ!ただし、経験値と金じゃないがな!楽しみにしていろ、フフフフフ!!」
なんと、試合のメリットとデメリットは相応に存在したのです。果たして彼らは何を奪う気なのでしょうか。
「クカカカカ、後悔してももう遅いわ!!実は、こんな展開になるなんて我らも思っていなかったんだが
 棚からリーフパイというもの!さあ、試合をおっ始めようぜ!!」
この世界の諺では、棚からぼた餅ではなく、リーフパイとなっています。
試合をするメンバーが、コートに入りました。左側には冒険者チームのナイトさんと、レンジャーさん。
右側にはコボルトくんとゴブリンくん。二対ニ形式です。なお、基本的なルールは普通のビーチバレーと
ほぼ同じものです。初心者にも安心です。
「二人共、あいつらのやけに強気な態度がどうも気になる。何か策を考えているのかも知れないよ」
コートの外で待機している、クレリックさんがワンポイントアドバイス。さすが、パーティーの頭脳です。
「なーに、死なないと分かってるから安心しきってるんだって。ゴブリンもコボルトも、いつどこで
 会ったって戦い方はいつも腕力と体力任せの攻撃だけだったじゃない。問題ないわ」
「でも、驚きましたね。魔物でもスポーツを嗜むんですね。ところで、ナイトちゃんは甲冑を着たままで
 大丈夫なんですか?」
レンジャーさんの心配、というか疑問はもっともです。軽装でどんな場所でも身軽に動ける
服装のレンジャーさんと違い、全身鎧を装備しているナイトさんは明らかにスポーツに不向きな格好です。
「何言ってんの、甲冑は騎士のステータスだもの!重い装備のままスポーツも出来るよう、鍛えてるわ!」
「あなた達!準備は宜しいですかな?………では、冒険者チームのサーブから、いざ試合を開始します!!」
クレリックさんは口に出しませんでしたが、直感しました。
これは、何か起きる…!


次回、「怒りのサーブ」。つづくよ

5 :Fight2/怒りのサーブ ◆DPuxeUccgI :2015/09/18(金) 19:02:24.45 0
試合は10点を獲得すると、1セット奪取。2セット先取した方が勝利という形式。
先攻の冒険者チームは、うまくやればサーブだけで勝利を収める事が出来るわけです。
「開幕はジャンプサーブあるのみ!行きますよ〜、ぼん!」
レンジャーさんのジャンプサーブはコボルトくんの真正面、難なく拾われました。
「あっちゃー、だめでしたか」
「アタックが来るよ、備えて!」
ゴブリンくんのトスから、コボルトくんのアタック。相手は魔物、さぞかし威力のある球が来るかと思いきや
体育で嗜む学生が撃つ程度のひょろひょろ球、しかもまるで拾える位置です。
「フェイントでもないのにこの威力ならなんて事はないですね!ぼん!」
次は冒険者チームの攻撃。レンジャーさんのレシーブをナイトさんがネット右端に向かってトス。
それに合わせて素早く走りこんだレンジャーさんがアタックを仕掛けます。
「どっか〜ん!とね」
ゴブリンくんのブロックにはかすりもせず、魔物チームのコートに球が突き刺さりました。
冒険者チーム、やりました。早くも1点獲得です。
「よっし!」
「なあんだ、どうって事ないじゃん!次のアタックは私が決めちゃるぞ〜」
ハイタッチをして喜ぶレンジャーさんとナイトさんは余裕綽々、なんかもう楽勝ムードのようです。
ネット向こうの魔物チームはと言うと、先取点を与えておきながら、どうした事やら、無言のまま
口元に笑みを浮かべていました。薄ら笑いだけに不気味です。
その後の展開もほぼ同じようなものでした。魔物チームはサーブこそ確実に拾えど、単調な攻撃と
いるだけ状態のブロックは全て空振りに終わり、冒険者チームのペースのまま1セット目は
8-0まで試合が進みました。
「次はどんなサーブで行ってみよっかな?」
あまりにも他愛のない展開でナイトさんは使わなかった技を選んで使おうという余裕すら
見せていました。レンジャーさんも同様です。
「何でもいいですよ…というか、少し眠くなってきました…」
「よ〜し、じゃあ天井サーブで!」
宣言通り、ナイトさんのサーブは高〜く舞い上がりました。放物線を描き、ゆっくりと魔物チームの
正面ネット際に落下していきます。
「けっ…バカが!!」
コボルトくんがボール落下点まで距離を詰め、そのまま拾うのかと思いきや。
地面を蹴り、飛び上がったのです。

6 :Fight2/怒りのサーブ ◆DPuxeUccgI :2015/09/18(金) 19:46:45.36 0
「ぬぅ…おおーっ!!!」
「え!?ちょ…ぎゃふァァ!!」
レンジャーさんの顔面に、痛烈なスパイクが炸裂。レンジャーさんのめがねが砕け散り、鼻血とか出して
そのままぶっ倒れてしまいました。ナイトさんは、半ば遊びでサ^ブを打ち上げた後。コボルトくんが
レシーブをせずアタックに転じ、レンジャーさんをノックアウトされるまでをただ見ている事しかできませんでした。
鼻血を出しながら
「あうぁ…め、めがねめがね…」
と、倒れたまま破壊されためがねを朦朧とする意識の中で探すレンジャーさんは、どう見てももう
試合をやれる感じではありません。クレリックさんは頭を抱えていました。
「あああやっぱり…!」
「何が起きたの?ねぇこれ何が起きたの!?」
「ばか!見ればわかるじゃないのさ!魔物達は、ここまで本気じゃなかったんだよう!」
今まで無言だったゴブリンくんがグハハハハハ!と急に笑い声を上げました。
「実力の1/3も見せていないのに、勝った気になっている貴様ら人間どもの姿はなかなかに見物だったわ。
 わざわざ俺達に負ける為にバレー勝負に応じてくれて、ありがとうよ!」
「そんな、まさか!?神様、バレーの試合になったのって…」
「みなまで言わないで下さい!!…彼らの提案です!!!是非とも、大好きなバレーボールで
 勝負をしたいと申し出てくれました!!!!」
なんと、バレーの試合は魔物達の思惑によるものでした。彼らは自分達の町の中ではNo.3の実力を誇る
バレーペアだったのです。自分に有利な条件で戦うのは、勝負の基本。勝負は非情なものでした。
「クカカカカ、戦闘レベルでは貴様達の方が上でも、バレーの腕前に関しては学生の部活動程度だな!!」
狡猾に笑うコボルトくん。その表情は忌々しいにも程があります。
「そ、それよりもレンジャーちゃんが…」
「分かってる!回復魔法を」
「いけません!!!」
クレリックさんが回復魔法を行使しようととしたところ、神様がすっ、と手を出して制しました。何故なのでしょう。
「これは、あくまで、皆さんがたの、肉体だけを用いたスポーツファイト!!!どこの世界に、試合中
 魔法を使って有利に進めようとする者がおりますか!!!バカモン!!!!」
試合中における魔法や特殊能力の使用に関する規律は、後にしっかり定められる事になるのですが
この時は初戦と言う事で、完全な使用不可だったのでした。
もちろん、レンジャーさんが回復するまで待つ、壊れためがねを取り替える、のも許されなかったのです。
「くぅぅ、神様のケチンボ!しょうがない、クレリックちゃん。ここからはあなたが試合に出て!」
「ボクが!?む、無理だよ!ボクのめがねまで割られちゃうって!」
「むっ、それは…いけませんな!!!魔物チーム、先程の殺人スパイクは不可抗力だったと不問に致しますが、
 また選手そのものに対して直接攻撃とも取れるアタックを仕掛けたら、反則と見なしますよ!!!!」
「承知してますって神様。これで二対ニになったんだし、スポーツマンらしく正々堂々とやりますとも。グフフフ」
そう言ったゴブリンくんでしたが、醜悪な表情を隠そうともしません。一体、どのような手で来る気なのやら。

7 :Fight3/始まりの終わり ◆DPuxeUccgI :2015/09/19(土) 23:58:53.15 0
冒険者チームはナイトさん&クレリックさんペアとなって、バレーボールファイトは再開されました。
「しょうがないなぁ…負けたくないし、ボク頑張るよ」
「頑張りだけでどうにかなるものではないわ!!愚か者!!ぬん!!!」
ゴブリンくんのジャンプフローターサーブが、交代したばかりのクレリックさんめがけて猛スピードで
襲いかかりました。当然ですがゴブリンくんの走りより速い球が飛んできました。
「ひゃーーー。うぐっ、ごほっ」
レシーブで受ける構えを取るよりも早く、クレリックさんの腹部にボールがめり込みました。これは痛い。
「どうしたどうした、もう二点返したぞ?」
「このやろーーー!!…大丈夫、クレリックちゃん!?」
ナイトさんが駆け寄って介抱しますが、後衛クラスで守られるのが基本のクレリックさんには
相当こたえました。すっかり顔が青ざめています。
「げほ、げほ…この勝負、もう完全に不利に傾いているよ。一番動けるレンジャーを潰し、逆に一番動けない
 ボクを引きずり出す作戦だったんだ。次も、いや、この後もボクを狙い撃ちしてくるに違いない」
「だったら、クレリックさんをフォローすればいいだけの事っ!」
相手の狙いが読めて、意気込んでもどうにもなりませんでした。ナイトさんがクレリックさん付近に
布陣するフォーメーションを取ると、例えレシーブが出来てもボールが相手側へ返ってしまえば
ナイトさんが動いた事でコート内に発生した空きにアタックを打ち込まれたのです。
さらに、時にはクレリックさんを狙うと見せかけて、ナイトさんを狙ったりなどとポイントを絞らせないようにも
魔物チームは的確に打ち分けてきました。経験を多く積む者と浅い者の間には、試合の中だけでは
とても埋めようのない力量の差というものが存在するのでした。
1セット目を8-10で魔物チームが制し、続く2セット目もここまでに0-6と、これまた魔物チーム超優性のまま
試合が進んでいます。ナイトさんは、それでも闘志を失っていません。
「ピンチはチャンスっていうし、何か…何か手があるはずだもの!!」
「神様、タイム」
「承知、しました!!三分だけですよ!!!」
クレリックさんがタイムをかけ、両チーム共にコートの外へ出ました。
「どうしたの?何かいい作戦でも思いついた?」
「この試合、勝ち目はゼロだよ。逃げよう…」
「ええ!?」
「今までだってそうしてきたでしょ。勝てない勝負を続けても意味がない、そんな時はすぐ逃げる。だったよね」
「なりません!!!」
会話に突然、神様が割り込んできました。思わず二人は驚きました。
「通常の戦闘ならば、どこででも逃走を選択出来る…生きる事を優先させる為なのですから、よろしい!!!
 しかし、これは、バレーボールファイト!!!生死に関わりません!!勝負を承諾する前に逃げるを
 選択しなかったあなた達に逃走の権利は…与えられないのです!!!!バカモン!!!!!」
「え〜…。このまま続けてたって、勝てないし、何より怪我しそうだよ」
クレリックさんは、すっかり意気消沈。やる気が感じられません。ですが、あからさまに先が見えているのも
事実。そこで神様も鬼や体育教師ではないので、一つ提案を出しました。

8 :Fight3/始まりの終わり ◆DPuxeUccgI :2015/09/20(日) 00:34:23.18 0
「では、『棄権』…しますか?これは、スポーツの世界でも、認められている事です!!!」
「します」
「はっや!!てゆーか、まだ私は納得してな〜〜〜い!」
冒険者チーム棄権の為、世界初となる戦闘行為の代替として組まれたバレーボール勝負は
魔物チームの圧勝で幕を閉じました。普通の力と魔法のぶつけ合いなら不覚を取らない相手だけに
ナイトさん達は悔しくて仕方ありません。
「得意とする分野で勝負出来るってのは、気持ちのいいものだなぁ!クカカカカ!なんなら、また
 勝負を受けて立ったっていいんだぜ?」
「こ、こいつぅ…」
「念の為言っておきましょう!!!これは、世界で最初の、殺傷を主目的とする戦闘の代替勝負!!!
 記念すべき一回目の特例措置として、あなた達の希望を聞き入れて勝負方法を決めさせていただき
 ました……が!!!!次からは、公平性を考慮して、我が内容を決めます!!!!」
「え゛っ」
「またこいつらと戦う事になっても、同じバレー勝負にはならないかも知れないんだね…そこは一安心かな」
「安心するのはまだ早いですよ!!!」
勝負に勝ったチームには、一定量の経験値を与えられると同時に、欲しいものを相手チームから
奪える、というのが試合前の約束でした。ゴブリンくんとコボルトくん、この二匹が欲した物とは…。

「…ぷっ。わーーーーははははひーーーーひひひひ!!!なんだァお前のツラァ!!!
 まるでカッペじゃねえか!!ギャハハハハハハハハハハ!!!!」
「わ、笑うな!笑うなぁ〜ッ!!」
ナイトさんの全身鎧がはぎ取られ、素顔が明らかにされてしまいました。10代の少女であるのは確かですが
頬のそばかすに団子っ鼻という組み合わせの顔立ちは、お世辞にも美少女とは呼べない代物でした。
ついでに、クレリックさんのクロークも没収され、同世代女子平均よりも少々脂肪の多い四肢が露わに
されてしまっています。さすがに恥ずかしいようで、クレリックさんも頬を赤らめています。
「…ゴクリ。いい体つきしてるじゃねーか、お前…」
「うるさいな。用が済んだんならもう行きなよ」
「では、我は天へ帰ります!!!今後もこの、命の奪い合いが起きない代替戦闘を地上で実施していく
 予定ですので、色々考えておかねばなりますまい!!!!…さらば地上の住人達よ!!!!!」
神様は杖を空に向けてスッ、と掲げ、眩い光を発した後に姿を消しました。
平野に設置されていたバレーボールコートも無く、元通りになっています。
「さてと、俺達も帰るか」
「遂に人間に勝って、戦利品を持ち帰ったと長に報告出来るんだな…くおお、父さんやったよ!」
魔物達も満足した様子で振り返る事なく去っていきました。日の沈みかけたアサキン平野に残っているのは
ボロ負けを喫し、奪われるものを奪われた若い冒険者達だけです。

9 :Fight3/始まりの終わり ◆DPuxeUccgI :2015/09/20(日) 00:56:39.54 0
「ひどい目に遭ったね」
「そーですね…」
「これまでしてきた事の罰が下ったのかもね。ボク達派手に魔物狩りしてたんでもないケド」
「問題はこの後じゃない?」
「ええ、今日の宿代をまだ稼いでいませんし…」
「違う。神様が去り際に遺した言葉を思い出して」
神様は、殺傷を生じさせる戦闘で決着をつけるのではなく、今回のような違う方法で解決する代替戦闘を
取り入れていくと言っていました。魔物、或いは人間など知性体同士での戦いに武器が用いられず
どちらかが死んで片が付く事が無くなる可能性を示唆しています。そうなった場合…。
「鍛えに鍛えた戦闘技術や、覚えた魔法が役に立たない…?」
「まだ決まった訳じゃないけど」
「ねえ、もしかして私達…剣や魔法で戦わない時代の扉を開けちゃったとか?」
「どうなっちゃうんでしょうね、この世界…」
レンジャーさんが、朱に染まる空に向かって問いかけますが、答えはやはり、返ってきませんでした。

かくして、弱肉強食の自然の摂理そのものは変わらずとも、殺し合いが決着をつける手段では
なくなった世界は始まりを告げたのでした。
武器を扱い、魔法を身に付け、戦闘の技能を研鑚して発展してきた知性体が
何をもって白黒をつけるのか。それを知っているのは、神様だけかも知れません。



次回、特別企画が人知れずスタートするよ

10 :戦乙女、出立す ◆DPuxeUccgI :2015/09/21(月) 22:57:48.56 0
                   悪夢の共演!戦場は競技場!?


代替戦闘―――
それは、人間や亜人、魔族を始めとする『言葉も話せて道具も使える、文明社会の中の生者』達の
何かを得る為に繰り広げられる戦闘を、殺傷を手段に含めない知的行為に置き換えて行われた”勝負”。
若き冒険者と魔物による世界初の代替戦闘から、一ヶ月が過ぎていました。
宇宙の森羅万象を支配する神様が相手の命を奪わずに戦って解決する事に感激したばかりに
世の理として定着してしまったのですが、特に喧伝されているでもない為に世界の認知度は
まだまだ低いのが現状です。血生臭い命のやり取りを知らずに今日も元気に生きる一般市民達には
唐突に神様によって制定された非殺傷戦闘法案、即ち代替戦闘はほぼ浸透していないのでした。


            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=f1WOuwmU490
                (出演キャラのテーマ曲のつもりで聴こう)

地上世界とは異なる次元に存在する異世界の一つ、ヴァルハラ。
ここは死後の世界であり、生前の輝かしい武勲を認められた者が戦乙女『ヴァルキュリア』に導かれて
訪れると伝えられる摩訶不思議な空間です。外界と視覚的に繋げられる機能を有するヴァルハラの宮殿
ヴァーラスキャールヴから地上世界の様子を眺める一人の戦乙女の姿がありました。
「武を振るわず、戦で命を散らさない世界…」
「アルヴィト。今日も地上の様子を見ておったのか」
「そんなに気になるのー?って、気にしているのは英霊の候補達の方かなー?」
アルヴィトの背後に、いつの間にか戦乙女が二人並んで立っていました。
年寄りじみた口調のフリストと自他共に認めるのんき者のレギンレイヴです。
外見は10代後半の少女、といったアルヴィトよりも二人はやや幼く見られがちながらも、立派な戦乙女です。
「創世の神が因果そのものに干渉してまで、変容させてしまったんですもの」
「しかしのう。まだ地上時間で一月程。凡そ変化が顕現しているのではなかろうて?
 このフリストのよ〜く見渡せる眼をもってしても分からぬ!分からぬのじゃ!つまり…」
「ヴァルハラにまで影響が出る段階じゃないよ。今から気にしてたってしょうがないってばー」
「そうね、杞憂だと思うわ」
と言いつつも、アルヴィトは振り返らず、地上世界の様子に意識が向いたままです。
レギンレイヴとフリストは無言のまま、互いの顔を見合わせて肩をすくめました。
「また何か考え込んじゃってるよ…」
「え〜いッ、地上が気になるんだったら直接出向いてみれば良かろう!」
「フリスト単純すぎ!簡単に行って戻って来られる訳じゃないのに」
突然、アルヴィトが振り返り、レギンレイヴの両手を握って言いました。
「確かに、時には単純明快な理由で行動した方がいいわよね。ありがとうレギンレイヴ。決心がついたわ」
「???」
「フリスト、留守をお願いね。久々に休暇を貰って、少し地上見物を楽しんでくるわ」
「いきなりというか、珍しく思い切ったの〜。…よし行けい、アルヴィトッ!」
アルヴィトは戦友達に背中を見送られながら、ヴァーラスキャールヴを後にしたのでした。

11 :こんにちは古都 ◆DPuxeUccgI :2015/09/21(月) 23:01:19.24 0
900年という長い歴史を誇る古都ガディ・ランドール。
旧世紀の建築法を用いて建てられた石造りの街並を所々に残す一方で人々の生活様式は
近代化しており、中心部の大型市場には週に三度、大陸各地から運ばれてくる品が流通しています。
隊商を率いる商人、観光目的の旅行者、我が道を往く冒険者…
石畳の道を行き交う来訪者の群の中に、この日初めてガディ・ランドールへと訪れた
『異国からの仮初の客人達』の姿もあったのでした。

            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=c6oT0MYaSxw

南門から都に入った群集の中に、今時珍しい古風な魔法使いの少年がいました。
フード付きローブに手に持った杖という出で立ちは、魔法に関係する職に就く者の基本ですが
若年世代の魔法使いにはどちらかと言えば好まれないものです。
「最初に着いた所が風情もあって人の多い都たぁ、幸先が良さそうだぜ。
 オレの名はノーウィス。旅の魔法使いだ、よろしくな」
「? はあ…」
ノーウィスのすぐ目の前を通った一般市民は自分に話しかけられたと思い、曖昧な返事をしました。
「そこのアンタ、何か困った事があれば言ってみな。魔法道具を使えばチャッチャと
 解決可能かも知れないぜ」
「いえ、ないです」
一般市民は小走りでチャッチャと去っていってしまいました。
「ま、商売するなら道のど真ん中より良さそうな場所を選ばないとな。えーっと…」
すぐそばに都内の案内用看板を見つけ、人が集まりそうな都の憩いの場への道筋を確認すると
ノーウィスは再び群集の中へ紛れて行きました。
ガディ・ランドール南通りを歩いていくと、やがて広場に出ました。広場の中央には大理石製の噴水、
道の左右に敷かれた芝生の上に木のベンチが設置されています。市民や観光者がお天道様の下で
思い思いの時間を過ごしています。平和としか言い様がありません。
「お、いいねえ!芝生まであるなんて。このまま寝転がりたい気分だけど…商売商売っと」
ノーウィスが荷物の中から風呂敷と手製の魔法道具の数々を取り出し、目の前に広げようとした時
噴水の向こう側がにわかに活気付き始めている様子が見えました。


つづくよ

12 :閑閑甘味料 ◆DPuxeUccgI :2015/09/22(火) 17:51:09.18 0
            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=QCBTYmviLJc

「いいか、市民諸君。こちらが皆もよく知るサトウキビ由来の砂糖。そしてこちらが、我が社が
 売り出しているダイエット甘味料。一見同じ物、同じ味に感じる事だろうが
 使い続けて違いを実感するのはダイエット甘味料の方だけだ。一つ試してみる気はないか?」
広場に集まった人々が囲って見ているのは調味料の路上販売でした。
この日は普段より多くの隊商や遠方の業者が新商品をひっさげて都にやって来ているようです。
中にはこうして露店を開き、地道に商品を売って回る行商の方々もいたのでした。
木製テーブルの上に並べられた大量のプラスチックの容器に詰められているのは
白い粉末状の甘味料との事ですが、説明を聞いた通り砂糖と区別がつきません。
人だかりを作る古都在住主婦の皆さんの反応は、お世辞にも良いとは言えない様子です。
「うーん…甘味料と言われてもよく分からないわ」
「体に優しく甘い物だ」
「砂糖よりも安いの?」
「商品単価は一般販売されている普通の砂糖と然程の差はないぞ」
「だったら、使い慣れている方を選びたくなるわよねぇ」
「そうそう」
「む…見慣れない物に抵抗があるからと試さないのは損だぞ。ダイエット甘味料だから
 糖分を気にせざるを得ない者の心強い味方となるのは間違いない、それは保障する」
商品の説明に耳を傾けていた主婦の一人が、甘味料入りの容器を一つ手に取り、まじまじと見ています。
「お一つどうかな。通常価格の15%OFFで販売中だ。お得だろう」
「ところで、さっきから気になっていたんだけどねぇ。あなたの格好…何?」

13 :閑閑甘味料 ◆DPuxeUccgI :2015/09/22(火) 17:53:01.82 0
                                 ___          
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                           [二二二二二二]
                           〈         〉
.                          /_____ \
                          |            |
                          | ; /|  ┼┐``  |
                          |  (ノ ユ / /  ̄  |    「俺はシュガーカットだ。
                          |   ┼┐  |   .|     それ以上でもそれ以下でもない」
                          |   / /``/ | ̄ .|     
                          | ┌―――――┐ |
                          | | ,._ヽ  /_,,. | |       
                          | |(_ノノ  _ (\,_).|. .|
                          | |     / ヽ   .|. .|
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14 :閑閑甘味料 ◆DPuxeUccgI :2015/09/22(火) 18:01:25.72 0
「何でこんなパッケージなの?」
「イケメンだろォ?」
「…ちょっと怖いと思う」
「我が社の開発チームが考えたデザインを社長が承諾したからこそ、こうしてパッケージに
 採用されている。あなたはまだ馴染みのない甘味料を使ってみる事に抵抗があると
 言っていたな?そんな消費者の未知への畏れを表現したデザインなのかも知れん」
(売りたいんだったらもっとキャッチーで手に取りやすいデザインにしなきゃダメなんじゃねえの…)
さり気なく人だかりの中に入り込み、説明を聞いていたノーウィスは声に出さず心の中でツッコみました。
「う〜ん…やめておくわぁ」
主婦が商品をテーブルの上に戻し、広場から出ていきました。それに呼応するかのように
人だかりはバラバラになってその場から離れていき、シュガーカットの前にはノーウィス一人だけが
ぽつんと残っていました。
「販売の仕事も一筋縄ではいかないものだ」
「な、なあこいつは…」
「シュガーカットに興味があるのか?」
「甘味料だか何だか知らないけど、こんな顔印刷されてたらちょっと不気味じゃないか?」
パッケージに抱いた率直な印象をノーウィスは述べました。恐らく、先程までこの商品を見ていた
人々も同様の感想を持っていたのではないでしょうか。
「不気味?どこがだ」
「普通に考えてみてくれ、調味料の容器にこんなアートみたいな顔描いてあったって
 あまりいい印象持ってもらえないと思うぞ。見られているみたいで怖いだろこれ」
「見られるのが嫌な方なのか」
「いやオレの事じゃなくて!大体何なんだシュガーカットってのは!」
「さっきも説明しただろう、ダイエット甘味料だ。味は砂糖とそっくりだぞ。…そうか、実際に味わって
 もらわなかったのが失敗の原因だな。少し待っていろ」
シュガーカットがテーブルの下から金属製の水筒を取り出し、水筒上部を回して蓋を兼ねたコップと
飲料の入った筒部分に分けました。筒からコップに茶色の液体が注がれ、そこに例の甘味料が
さらさら、と僅かに太陽の光を反射しながら吸い込まれていきます。
小さなスプーンで数回かき混ぜられた後、コップがノーウィスに手渡されました。
「これが甘味料で味つけされたカフェオレだ」
黙って受け取ったノーウィスは一口飲み、直後一気にコップをあおってカフェオレを飲み干しました。
「…旨いな。砂糖より軽め、っつーか…さっぱりした味わいだ」
「ありがとう」
そう言ったシュガーカットの表情に変化はありませんが、この時確かに喜んでいたと言います。


つづくよ

15 :弓兵の本分 ◆DPuxeUccgI :2015/09/24(木) 23:41:19.81 0
都の西側には300周年記念の際に造られた巨大アーチがあり、そこをくぐると市街区が北側にまで
伸びています。古都北側へ続く一本道は緩い傾斜となっており、坂の上まで石造りの四角い建物が
軒を連ねています。しかも、市街区は各種店舗や娯楽施設、大型市場のある商業区と隣接している為
まさに市民権を得て暮らしている者には至れり尽せりでした。しかし、ガディ・ランドールは土地単価や
税金が高額で、普通の街なら半年暮らせる金額が二ヶ月でなくなる程だと言われています。

            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=lsRbr3MqlUQ

ガディ・ランドールが誇る観光スポットの一つ、大型市場の敷地内には食肉・水産加工場があり
その日加工された食材を調理して販売する工場直営の屋台が密かに人気を集めておりました。
四種の香味野菜と一緒に食べる特産豚の串焼きの屋台の前へと、弓使いである事が一目瞭然の少女が
鼻腔をくすぐる炙り肉の香りに導かれて来ました。
「な、なんだなんだ魅惑的な匂いだな」
「姉ちゃんも味わってみないかね?よそじゃ食べられないジムサ豚の串焼きだよ」
「ジムサ豚なら普通に飼育されている豚じゃないか?」
「…って事は姉ちゃん、西から来た人かい」
「ま、まあな…」
紅い髪を三つ編みに結び、背中に大型の弓と腰に矢筒を装備しているこの少女の名はロゼ。
深緑豊かな小国の出身で、身を寄せている酒場の主人の依頼により
受領する品々を輸送する運び屋の護衛の為、ガディ・ランドールへ赴いたのでした。
「しかし、都ではこうして調理しているのか…ゴクリ。い、いくらだ」
「一本1000ズィルフね」
「なんだそりゃ!うちの店の肉料理の倍近い値段だぞ!」
文句を言いながらもしぶしぶポケットから財布を取り出そうとした瞬間、遠くで大きな物音がしました。
音が聞こえた方向に顔を向けたロゼは、市場の通りで人の奔流が出来ている中に
僅かな隙間を縫うように機敏に動く影を見つけました。
「誰かそいつを止めてくれ!!泥棒だ!!!」
高速移動する影の正体はこげ茶色の体毛に覆われた狼の亜人の男でした。泥棒と聞いた
次の瞬間にはロゼの横をひゅんっ、と通過していき、紅い三つ編みが風で舞い上がりました。
「ふーん、泥棒ね。任せろ」
左手で矢、右手で背中の弓を取り、体の前で両手を合わせるような動作をした後。
ロゼは弦を引いて射撃体勢に入っており、狙いをこげ茶色の逃亡者に定めていました。
狼の亜人が一階建ての建物に飛び移ろうとしたのですが、間に合いませんでした。
通りの人々の頭上を一本の矢が飛翔し、狼の亜人の左脇腹に突き立ったのです。
「こいつより速く走るのは豹にだって無理だぞ」
ロゼが呟くとほぼ同時に、狼の亜人はがくっと膝を折って足を止めてしまいました。

16 :古都と亜人と ◆DPuxeUccgI :2015/09/24(木) 23:55:43.99 0
「ちぇっ、外した。足を狙ったのに」
「それでもすげえな姉ちゃん」
狼の亜人とロゼの距離は既に60メートル弱は離れていました。
「おーい、誰でもいい!今のうちにその狼野郎を取り押さえていてくれっ!」
何かを盗まれたらしい、小太りの中年男性が喚きながら狼野郎を追って走ってきました。

            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=LCPTGvvl3Vg

脇腹を押さえながらうずくまる狼の亜人は刺さっている矢を引き抜き、逃げようと立ち上がり
ましたが、やや小柄で同じイヌ科と思わしき亜人の青年がいきなり目の前に現れました。
「あー…よく分からないが、大人しくしたらどうだ?」
青年の金色の瞳にまっすぐに見つめられた狼の亜人はよろめきつつ言いました。
「うるさい!そこをどけっ…!」
「怪我がもっとひどい事になっちまうぞ。やめとけやめとけ」
「あんな奴らに従うのはもうまっぴらなんだよ…!」
二人の亜人の背後が騒がしくなってきました。中年男性が市場の警備員数人を引き連れて
追いついてきたようです。ついでに野次馬もぞろぞろと周囲に集まってきました。
「ゼーハーゼーハー……店の売り上げを持ち去ろうなどと、よくも〜っ!」
カン高い声で叫びつつ、中年男性は狼の亜人を手に持っていた木の棒で殴りつけました。
殴られた狼の亜人は敵意のこもった眼で、中年男性を睨み返します。
「一年も前から給金を全く払ってくれていないんじゃあな…あんたの元で働くのもバカバカしくなる!」
「悪事を働いた奴が言うか!!」
「おい、よせ!」
「貴様こいつの同族だな!そんな奴が神聖な市場で何をしている!?」
「これでも複数の企業と取引している雑貨屋経営者でね。あとな、俺は狼じゃなくて犬の亜人だよ」
「ふん、余所者か。警備員、このクズをさっさと連れていってくれ!わしも後から警務府に行く!」
中年男性に促された警備員達は口々にまた亜人か…とぼやきながら、狼の亜人を縄で拘束して
連行していきました。
「卑俗な亜人など使ってやるべきではなかったわ。家畜以下のクズめが」
吐き捨てるように言った中年男性に、自称犬の亜人の青年がムッとした態度で詰め寄ります。
「待てよ。さっきの男の話は本当なのか。一年もの給金未払いは労働法違反だろう」
「”どこ”での話をしている。ガディ・ランドールはどの国家にも属さないが故に、適応されるのは
 この都で定められている法令のみだ!」
面倒くさそうな表情を浮かべた中年男性は、鼻息荒く踵を返して行ってしまいました。
「なんだか、噂の古都も聞いていた程いい所でもなさそうだなー」
一連のやり取りを野次馬と共に見ていたロゼは串焼き屋の主人の隣で呟きました。
「かも知れんねえ。活気と仕事に溢れていても税金や物価は他と比較しても高いし、ここへ働きに来る
 亜人は何も知らない人だけだろうなぁ」
騒ぎが収束し、普段通りの人が右往左往する市場へと戻っていく中、逆流する人ごみにもまれながら
亜人の青年に近づいてきた商人がいました。
「あなたがダムさんですか?」
「…ああ、そうだが」
「どうも初めまして、ポランニー物産の者です。ダムさんは犬の亜人と聞いていましたので
 一目で分かりましたよ!では、私どもの工場へご案内……どうかされましたか?」
「何でもない。行こう」
ダムと呼ばれた亜人は、自分達を取り巻いていた人々から投げかけられていた視線が
忘れられないようでした。”亜人だけ”に向けられていた、冷たさしか感じない視線を。

17 :古都と亜人と ◆DPuxeUccgI :2015/09/25(金) 00:22:25.76 0
小一時間程度で取引先との商談が終わった後、ダムは古都の各所を歩いて回っていました。
近くの景色に視点が会っているようで遠くを見つめるその表情は観光を楽しんでいる風ではありません。
「俺の街ではまだ亜人と人間は良好な関係を築いていたのに、何故なんだ」
先刻の騒動から多少なりとも想像はしていましたが、ガディ・ランドール内での亜人に対する
人間達の態度は、亜人であるダムにとって友好的には感じられなかったのでした。
住宅街に入って間もなく目にしたのは、手や首に枷をつけられた猪の亜人と妙齢の婦人市民の姿でした。
亜人は所々が汚れたみすぼらしい服装で、大きな箱を重ねて運んでいました。亜人の前を歩く婦人は
正反対に身なりが整った、富裕層らしい人間です。手ぶらで悠々と歩いていました。
「うわっ」
「まっ。何をしているのよ、中身が瀬戸物だったら割れてるところじゃない!このおバカ!」
亜人が石畳の道の溝でつまづき転ぶと、婦人が心配したのは荷物の方でした。
近い距離にいたダムは地面に落ちた箱を拾い上げ、亜人が抱えている箱の上に乗せてあげました。
「あ、ありがとう…」
「礼には及ばん。そっちのご婦人、重い荷物を一人だけに運ばせたりしてどうしたんだ」
「は?どうもこうも、うちで使っているのは『それ』だけですもの」
連れている亜人を”物”として考えている事を隠そうともしない人間の言葉に、ダムはただ絶句
しました。この猪の亜人は、婦人の邸宅で奴隷並の扱いをされているに違いない。そう直感しました。
「なあ、あんた!あんたは今の自分の生き方に満足してるのか!?」
ダムの問いに対して返ってきた亜人の声は、とても弱々しいものでした。
「こうして、私は生きているんです。私のような亜人は他にもいるので、特別珍しくないですよ」
猪の亜人が言った事は確かな現実でした。市街区で見た亜人も、商業区で労働力となっている亜人も
皆、人間と同等の立場になかったのです。鎖で繋がれ、命令に対して従順な動物と化すよう強いられ、
酷い場合は主の不機嫌から来る不当な暴力により、傷つけられる亜人の姿もありました。
ダムは心の奥底に渦巻く憤りを感じながらも、ただ胸の内に閉じ込めておく事しか出来なかったのでした。
自分は余所者であり、ガディ・ランドールの亜人達も奴隷と変わらない生活を受け入れているが故に。

            BGM:https://www.youtube.com/watch?v=En2KnRzYEls

「くそ…嫌な気分だ。俺はあんなものを見に来たんじゃないのに」
知らない内にダムの足は、ふらふらと広場へと向いていたようでした。開けた場所に噴水があり、近くで
路上販売を行っている者の姿もあります。客は一人しかおらず、どうにも商売をしているようには見えません。
「オレが品物を売りたい時は、実演販売を行うぜ有用性を客に示すんだ」
「なるほど」
「効果てきめんだったのは、この簡易火炎魔法マット。こいつを客の前で使ってみせた途端、マジ爆売れ!」
「では甘味料の場合、有用性を証明するにはどうすればいいのだろうか」
「そりゃ、その…オレに甘味料入りカフェオレをくれたみたいに、味見用に出してみりゃ
 いいんじゃねえか?ほら、客だって来てるぜ」
ダムの視界内への接近に伴い、ノーウィスはシュガーカットを軽く肘でこづいて教えました。

18 :魔法使いとシュガーカットと弓兵と亜人と ◆DPuxeUccgI :2015/09/25(金) 00:45:39.37 0
「そこの若いの。我が社の甘味料、商品名シュガーカットを使ったカフェオレを味わっていってくれ」
「…俺の事かい?」
「今声をかけたのは紛れもないお前だ」
「客をお前呼ばわりするなって!」
何故かノーウィスが慌てた様子でした。これは失礼、と一言謝ってシュガーカットはカフェオレが注がれた
コップを差し出します。無言で受け取ったダムは、一口飲みました。カフェオレのほろ苦さと、砂糖とは異なる
甘さが口の中に広がりました。ノーウィスとシュガーカットが、ダムの顔をじっと見ています。
「あんた達…俺が亜人である事が気になるか?」
「気になる、とは?」
カフェオレの感想を言うものだとばかり思っていた客から発せられた言葉の意図は、ノーウィスと
シュガーカット両人には全く分かりかねるもので、不思議そうな表情で互いの顔を見合わせています。
「なんだなんだ、ここでも何か売ってるのか」
三人の間に妙な空気が漂い始めたその時、ダムとは反対方向から広場に入ってきたのはロゼでした。
ここへ来るまでに購入したらしいドーナッツをほおばりつつ、噴水を迂回してきたロゼは
テーブルの上に置いてあった甘味料入り容器を物珍しそうに眺めました。
「これって…砂糖か?」
「砂糖に似て非なる物だ。体に優しい甘味料だぞ。味見してみるか」
「それはちょうどよかった!このドーナッツ、少し甘さが足りてなかったんだよな〜!」
容器から白い粉が降り注ぎ、ロゼがドーナッツの白く染まった部分をほおばると、笑みがこぼれました。
「あま〜〜〜い!」
「当然だろう。甘味料の味はいかがかな」
「砂糖と何が違うのかさっぱりだ!」
ロゼの率直過ぎる返答にノーウィスは苦笑を浮かべ、シュガーカットはただ首を傾げていました。
ドーナッツを食べ終えてようやく、ロゼはすぐそばの見覚えのある顔に気がついたようでした。
「…さっき市場にいた犬の亜人のおじさんじゃないか」
「ああ、亜人だよ。ちょっと聞きたいんだが、あんた達から見たら亜人ってのは、どんな人種なんだ?」
無表情のままダムは、三人に向けてそう問いました。少しの間、沈黙が場を支配した後。
「どんなも何も、オレ達人間とほとんど一緒じゃないかよ」
「シュガーカットの前では種族の違いなど何の問題でもないが、区分するべき事柄でもあるのか?」
「わ、私よりも身体的に優れている。ちょっとだけ悔しいがそれは認めるぞっ」
ノーウィス、シュガーカット、ロゼは思い思いの言葉を紡ぎ出したのでした。
「亜人って、見た目以外にどの辺りが違うのかよく知らねえんだよなあ」
「普通の人間と魔法使いも何か違いがありそうだと思うのだが」
「そういうお前は何なんだよ!被ってる物?…とか!」
「どこの街に行こうとも、初めて会う者には大体そう聞かれる。何故だ」
シュガーカット自身は、どうして自分自身に疑問を持たれてしまうのかをまるで理解出来ておりません。
「何なのか分からないから聞くんだろ!なあネエちゃん!」
「そうだそうだ!この甘味料のパッケージの顔も意味が分からないんだが!?」
ノーウィスの言葉に同調して問い詰めるロゼですが、シュガーカットからの返答は。
「俺はシュガーカットだ。それ以上でもそれ以下でもない」
本人にしてみればこれが唯一にして絶対の、至って真面目な答えなのでした、ノーウィスとロゼは
言葉を失い額に手を当てて俯いてしまいました。シュガーカットに関する謎は深まる一方です。
「あんた達、ガディ・ランドールの住人じゃないんだな…。すまない、妙な事を聞いた」
フッ、と笑ってダムは中が空になったコップをシュガーカットに返しました。
心なしか顔つきが少しだけ、穏やかになっているようでした。


つづくよ

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